nest：ぽっぷらいふ：SSブログ

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nest　[凛] [編集]

梅雨時に咲く花を、写しに行かねばならなくなった。あいにく週末の高速道路は込み合っている。
それでもお昼の少し前には、トラックの走行数は更に減っていた。その代わりに、家族連れとは言っても
現役を引退された方が孫を引き連れた様子が特に眼を引くご時勢ではあった。
「エーと、チケットなんかは何処で売られているのですか」
「基本的には無料なのですが、寄付と言った形でお一人様二百円ほどを頂いておりますが」
「でしたら、はい、これ、二人分」
「ありがとうございます。それからこちら案内図ですので、宜しければお持ち下さい」
「ありがとう、それで宜しければ、写真を撮らせていただけませんか」
「いいですよ」
「ありがとうございます、ちょっと待ってくださいね、レンズレンズレンズ、と」

「でははい、ちー」
カシャ
「わっ、物すごーく好い、その笑顔。もう一枚いいですか」
カシャ
「どうぞ」
「ありがとうございました、ではまた後ほど」

「お前さあ、後ほどはないんじゃない」
「なんかあんな素直な笑顔を見たの、久しぶりだから
　嬉しくなっちゃった。後で誘ってみようかな」
「おまえねぇ、何考えてんの」
「モデルとして使えると思わん、あの屈託のない笑顔」
「そうなのかも知れんけど、その気になったらどうするんだよ」
「お前に任す」
「エーっ」
「慣れてんだろう」
「バーか、それは長谷の友達で、エーとほら誰だっけ、うーん、
　そうだ大石、あいつにたのべば一ころさ」
「いやいやいやいや、同類でしょう」
「きっぱりと足は洗いました」

「それよりあまり、パッとしないよね」
「たしかに、それにしてもカメラ持つやつ多くない
　ゲッ、あのご夫婦なんて180mmのマクロを付けた同じカメラ二台をスタンドに乗せ
　並べて撮ろうとしているぜ、何なのあれ、仲睦まじいの」
「シー、静かにしろ、蜂がいるんだ」
「撮れそうか」
「オー、任せとけ、撮ったぜ、もう何枚も、見てみろよ
　アッ、でもピント合ってない」
「駄目じゃん」
「だったらお前も撮ってみろよ、やっぱりあいつと来たかったなー」
「なんか言った」
「いいえ何も」
「そうかい、だったらいいが、いい写真もって返ってやるんだろう」
「うん、僕」
「お前は子供か」
そう、何故かしら自らを忘れる奴がそこにはいた。

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