「本日はお足をお運び頂き、まことにありがとうございます。
 先日のことではございますが、私もたまには洋服なんぞを買おうかと洋品店、
 大手洋服チェーン店ではございますが、足を運んだのでございます。するとどうでしょう
 今まででは考えられないぐらいにしっかりとした品揃えでしかも
 有名アパレルメーカー製の品物までもが取り揃えられているではございませんか。
 値段もこなれ、安値を強調するだけに、手軽であるといえば手軽でした」
「またなあに、下手な落語を作っているのよ、才能ないし、いい加減にしたら
 下手したら訴えられるわよ」
「何を申す。まだ話は始まったばかりだ。ここからが」
「考えるわけよね」
「………」
「でしょう。いつだってそうじゃない。ちゃんと後先考えてから遣ってよね。下書きぐらい必要よ」
「それよりかさ、この前、マラソン大会の写真を撮りに行ったんだよね。
 考えようによっちゃ、一斉にスタートする場面ぐらいしか
 いろいろ問題があって使いようが無いんだよな」
「そう言われればそうよね。だからって下半身だけって言うのも。好きだからな」
「あえぐ、吐息を吐く、苦しい表情を撮りたかったのにな」
「撮れなかったの」
「撮るには撮ったけど、ご存知のように今ご時勢、顔が写っちゃ拙いみたいだし」
「走る姿を皆が見ているのに」
「だから個人が特定されるのを嫌うらしいんだ。全体じゃないとね。絞って撮ることが要求されるんだ」
「絞ってってて、ギューギューと雑巾を絞るように」
「さすが、よくご存知で。レンズに入る光の量を細く少なくすると」
「奥行きがはっきりと出る」
「その通り」
「だからあなたの首を絞めると、過去の悪事のゲロをする」
「…くっ、くっ、苦しい」
「どうだ参ったか。訳の分かんない女のケツばかり追いかけやがって」
こうして今日もまた、日は暮れていた。