言い忘れていた、先程まで、ずーっと一緒だったのに、忘れていた。
今更また、追いかけて這い入る訳にもいかない。恋愛にはなりふり構わない様子も必要だ。
しかしクールな側面を覗かせる必要もある。それだからこそ、この境遇に今は甘んじよう。
印象、それが何より大切なのだ。今までは相手への思い遣りよりも
その場における立ち振る舞いに左右されてきた。話す言葉を捜すのに、精一杯だった。
何故か会う度に、この意識が高揚させられ、釘付けになっている。
独りよがりであったにせよ、満足をさせられていた、が、
その日はまた、そのドアを開けていた。そう、何気ない素振りで。
彼女は先程の位置からは微動だせずに、その状態で待っていてくれたかの様だった。
「やっぱりこれ、渡すのを忘れた。」持っていた写真が入った用紙入れを手渡すと
軽く「うん。」とだけ頷くが、その目からは更に何かを待ち望んでいるとさえ感じるが、
それでも互いに首を軽く傾げただけで、その場からは去っていた。